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図1 実空間活動とサイバー活動の比較

 

伝統的な交通行動分析では、移動によって得られる効用は、移動先で行う活動から得られると考えられており、その活動を本源活動と呼ぶ。本源活動を行うためには移動しなくてはいけないため、移動は派生活動と捉えられ、移動は金銭的費用が掛かったり、時間を無駄に消費したりするネガティブな活動であると考えられていた。もし本源活動を、移動せずにICT利用によってサイバーで行うことができ、そこから得られる効用も同じと考えられるなら、移動を伴う実空間活動とサイバー活動の選択は、移動にかかる費用とICT利用にかかる費用の比較で決まることになる。しかし、実際は図1で示している通り、実空間移動とICT利用の関係性は単純なものではない。そこで本研究では以下の点について評価・計測する。

1) 移動とICT利用による本源活動の効用の違い

ここでは、本源活動による効用は、実空間活動とサイバー活動で同じとみなせるかを検証する。社会心理学では、同じ実空間に一緒にいるという「共在(co-presence)」の価値があると言われている。例えば、オンライン会議では発言や文書などデジタルに表現することができる「形式知」のやり取りがほとんどになるのに対して、対面では身振り手振り、表情、感情、ときには身体的接触などを交えて表現する「暗黙知」の共有が容易になる。このように、実空間活動は圧倒的な情報量を得ることができることから、サイバー活動で得られる本源活動の効用は実空間活動より減じられると考えられる。本研究では、これを「サイバーによる本源活動効用の減少」と名付け(図1-①)、計測指標をリサーチし、定量的に評価する。

2) 移動の正の効用の評価

次に、フィジカルな移動に伴う正の効用(図1-②)について評価する。これは主に身体的・精神的な健康度の増加である。移動には多かれ少なかれ必ず歩くことが伴う。徒歩による身体的健康増進効果は、心肺・血管強化、体脂肪の低下、筋肉や骨の強化などがあり、精神的にはリラックスや脳の活性化が挙げられる。
 

 3) 移動またはICT利用の派生的効用の評価

フィジカルな移動またはICT利用で本源活動を行った場合に、それぞれ波及的な効果があると考えられる。移動においては、移動の途中や目的地で思わぬことを発見したり、人と出会ったり、地域の名物を賞味できたりする。ICT利用でも、サイバー空間上で同様のことが生じる可能性があり、これらを「図1-③派生的効用」と名付け、定量的に測定・評価する。

4) 移動またはICT利用の費用の評価

交通研究の長い歴史の中では、フィジカルな移動における費用として、運賃やガソリン代などの金銭的費用、移動時間、疲労や不快感などが考えられてきた。そして今回のパンデミックを契機に、人々が明示的に意識し始めた移動の費用が、移動中及び移動先で行う本源活動中の感染リスクである。一方、ICT利用にかかる費用には、ICT機器の減価償却費と通信費が主なものであるが、最近はインターネット利用にまつわるリスク、すなわちデータ流出、コンピュータウィルス感染、ネット上での誹謗中傷などの懸念が認知されるようになってきた。本研究では、新たに認識されてきたリスクを費用の中にどのように反映させるかを明らかにする。

 

5) 移動の価値がモビリティ革命への影響

1)〜4)のように、あらためてフィジカルな移動を伴う実空間活動とサイバー活動を比較評価し、移動の価値が現在起こりつつあるモビリティ革命[CASE(Connected,Autonomous,Shared,Electric)、MasS(Mobility as a Service)、モビリティDX(Degital Transformation)など]へどのような影響を与え、またどのように変化させるかを考察する。